企画展「生きものたちのロンド―宮本輝文学の名脇役たち―」
宮本輝の文学には、象徴的な生きものがよく登場します。「優駿」の競走馬をはじめ、「泥の河」のお化け鯉や船端の青く燃える蟹、「螢川」の螢、「道頓堀川」の三本足の犬、「春の夢」の柱に打ち付けられたとかげのキンちゃんなどが、重要な役割を担って物語を彩ります。しかし、その大半が、いわゆるペットとは言いがたい存在です。
ペットらしい代表は、「彗星物語」のフックです。ペットとは優しく撫でるという意味の動詞でもあります。登場人物たちは、この「アメリカン・ビーグル種の、ことし八歳になる牡犬」をことさら愛玩し、撫でさすっています。
宮本輝に「私の愛した犬たち」という文章があります。これによりますと、宮本輝自身、この小説の執筆当時、同じビーグル犬を飼っていました。既に宮本輝にとって六匹目のその犬は、マックという名で、フックを連想させます。その前に飼っていたコロという犬が死んだ際、「生涯二度と生き物は飼うまい」と誓ったはずなのに、また飼ってしまう。この気持ちは、動物好きの方なら誰しも共感できるところでしょう。その懲りない理由を、宮本輝は、「私の幼い息子たちに、愛するものを与えたかったからであり、生老病死という厳然たる法則を自然のうちに認識させたかった」と書いていますが、確かに生き物は、我々人間の姿と心を映す鏡のような存在かもしれません。
生きものに注目することで、全く違った視点から宮本輝文学を味わい直してみるのはいかがでしょうか。